大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)583号 判決

検察官の控訴申立の理由は提出に係る控訴趣意書記載の通りであるから右記載を引用するが其要旨は原審が本件公訴事実中暴行傷害の事件に対し懲役刑に執行猶予の言渡をしたのに刑法第二十五条の二による保護観察に付する旨言渡をしなかつたのは法令適用の誤であると言ふにある(覚せい剤取締法違反の事実に付ては何等控訴申立の理由記載なし)記録を調査するに被告人は所論の如く昭和二十八年六月九日名古屋簡易裁判所に於て窃盗覚せい剤取締法違反事件に付き懲役十月罰金千円懲役刑に付き五年間執行猶予の判決言渡を受け右判決は同月二十四日確定してゐて本件暴行傷害の公訴事実は昭和二十八年六月十五日に為されたものである。原審が右暴行傷害に懲役六月を量定し右刑の執行猶予を言渡したのに拘らず刑法第二十五条の二による保護観察処分の言渡をしなかつたのは多分この暴行傷害が昭和二十八年六月九日言渡の判決確定数日前の犯行(所謂確定前の余罪)である関係から恐らく昭和二十八年六月十日最高裁判所大法廷言渡の判例(昭和二十五年あ第一五九六号)の趣旨を基にして本件の場合は刑法第二十五条の二の再度の執行猶予の場合の規定の適用なしとしたものと推察される。

然し前記昭和二十八年六月十日の大法廷判決は保護観察制度を刑法に導入した同年法律第一九五号の刑法改正前のもので事情の変更した刑法改正後に於てはこの判例を必ずしも文字通りに解して改正刑法解釈の資料とすることは妥当でない。同判例は再度の執行猶予に付て「併合罪である数罪が前後して起訴されて裁判されるため前の判決では刑の執行猶予が言渡されていて而して後の裁判に於て同じく犯人の刑の執行を猶予すべき情状があるにも拘らず後の判決では法律上絶対に刑の執行猶予を付することが出来ないとの解釈に従ふものとすればこの二つの罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言渡されたであろう場合に比して著しく均衡を失し結局執行猶予の制度の本旨に副はないことになるものと言はなければならないそれ故かゝる不合理な結果を生ずる場合に限り刑法二五条一号の「刑に処せられたる」とは実刑を言渡された場合を指すものと解するを相当とする従つて本件のようにある罪の判決確定前に犯してそれを併合罪の関係に立つ罪に付ても犯人の情状次第によつては其刑の執行猶予を言渡すことが出来る」としたものであるが先に当裁判所が昭和二十九年五月二十五日同年(う)第二〇五号事件に付て言渡した判決の理由中の同一論点に付て説明したのと同一理由により前記改正刑法は右大法廷判例が再度の執行猶予を付し得るとした場合を考慮に入れて立法されたもので改正刑法の再度の執行猶予を付する場合の中には犯罪が前記の如き確定判決前の余罪たると判決確定後執行猶予期間内の犯罪たるとを問はず之を包含するものと考へる。従て原審が本件執行猶予を付するにあたり刑法第二十五条の二による保護観察の言渡をしなかつたのは失当であり控訴趣意の所論は理由がある本件には判決に影響を及ぼすこと明かな法令適用の誤あり原判決中の此部分は破棄を免れない。

(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)

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